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KG+ IN TOKYO 2019 [展覧会 / room]

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この度Art-U roomでは、KG+実行委員会との共催にて「KG+ IN TOKYO 2019」を開催いたします。KG+は、これから活躍が期待される写真家やキュレーターの発掘と支援を目的に、2013 年より京都市内でスタートした公募型アートフェスティバルです。また、KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭と連携し、同時期に開催することで国際的に活躍する写真家やアーティスト、国内外のキュレーター、ギャラリストとの出会いの場と国際的な情報発信の機会を提供することを目指します。
中でも、2019 年より始まった"KG+SELECT" は、専門家による審査で選出されたグランプリ受賞者が次年度のKYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭に参加できることにより、サテライトイベントと世界的なメインプログラムとの架け橋となる魅力ある公募展です。2019 年は公募より選ばれた12 組のアーティストのうち3組に、「グランプリ」「パブリックアワード」「パリファーストフロアギャラリー」賞が授与されました。今展示では、グランプリを受賞した福島あつし、来場者投票によるパブリックアワードに選ばれたアルメル・ケルガール、パリファーストフロアギャラリー賞を受賞したチカ&イチオ ウスイの3組の作品を展示いたします。ご高覧いただければ幸いです。


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KG+ IN TOKYO 2019
福島あつし、アルメル・ケルガール、チカ&イチオ ウスイ

会 期:2019年12月10日[火] ~ 15日[日]
    OPEN 12:00-18:00   会期中無休

■ イベント・レセプション 12月14日[土]
 14:30-15:30「朗読と書道のパフォーマンス」by アルメル・ケルガール & 今子青佳(書家)
 15:30-18:00 アーティストトーク&レセプション

主催  KG+実行委員会 www.kyotographie.jp/kgplus
   
  
展示風景とイベントの模様
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英ゆう「作庭」始まります。 [展覧会 / room]


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来週火曜日より英(はなぶさ)ゆうによる個展「作庭」が始まります。Art-U roomでは、前回2015年の個展「ソラカラキタル」以来、4年ぶり2回目の展覧会となります。

今回の展覧会では、出産後しばらく遠ざかっていた油彩画による新作を中心に、彼女が現在暮らす奈良の不退寺の境内にある植込みをモデルとした作品や、以前にレジデンスでしばしば滞在したタイの花飾りをモチーフとした作品が並びます。また、人が成る木の伝説に基づいて、長年描き続けてきた「ワクワクの木」のシリーズでは、蜜蝋などの新たな手法を用いた小作品を、八つ手を描いた壁面ドローイングの上に配置した楽しい展示もあります。

なお、本展のオープニングは行いませんが、最終日の7月6日(土)には、英本人が会場に来る予定となっています。

一雨ごとに緑濃くなるこの季節、お時間ありましたらぜひお立ち寄り下さい。

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英ゆう「作庭」
会 期:2019年6月11日(金) ー 7月6日(土)
    火曜ー土曜 12:00 - 18:00  日・月休廊
会 場:Art-U room  港区南青山1-15-2 南青山スタジオフラットB1-II
*最寄駅は、東京メトロ青山一丁目駅(4番南出口)、もしくは乃木坂駅(3番出口)となります。外苑東通りを進み、セブンイレブン向かいのクリーニング店横の道にお入り下さい。
作家在廊予定日:7月6日(土)

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カロリーナ・ラケル・アンティッチ個展「Somehow」始まりました。 [展覧会 / room]

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先週金曜よりカロリーナ・ラケル・アンティッチによる個展「Somehow」が始まりました。Art-U roomでは4回目、移転後の新スペースでは初めての展覧会となります。

アルゼンチン出身、イタリア在住のアンティッチの作品は、淡く繊細なタッチで描かれたどこか儚げな少年少女たちの姿が印象的ですが、今回の展覧会では、どういう訳か作家の心に忘れがたく留まる場面や人物を題材とした絵画とドローイング、それに陶製の彫刻を加えた全13点で構成されます。

なおアンティッチは現在、ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションにて開催されている「忘れられない、」展にも作品を出展しています(会期は4月15日まで)。そちらは2007年ごろに制作された旧作が中心となりますが、どうぞ本展と合わせてお楽しみください。

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カロリーナ・ラケル・アンティッチ「Somehow」
会 期:2018年3月23日[金] ー 4月21日[土]
    火曜ー土曜 13:00- 19:00  *日曜と月曜はお休みですのでご注意下さい。
会 場:Art-U room  港区南青山1-15-2 南青山スタジオフラットB1-II
最寄駅は、東京メトロ青山一丁目駅(4番南出口)、もしくは乃木坂駅(3番出口)となります。外苑東通りを進み、山王バースセンター向かいのほっかほっか亭横の道にお入り下さい。
後 援:在日アルゼンチン共和国大使館

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稲垣智子「Ghost」開催中。 [展覧会 / room]

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稲垣智子個展「Ghost」が始まり一週間が経ちました。初日のオープニングでは、芸術人類学者の中島智氏をゲストに迎え、座談会形式で稲垣智子との対談を行いました。詳しく書くとネタバレになってしまうのですが、「親密圏と公共圏」、「虚像と実像」、「演劇ー映像ーパフォーマンス」といったキーワードから作品「Ghost」を読み解くヒントが提示されました。また、稲垣さんが師事している呼吸法の専門家加藤俊朗先生も途中トークに参加して頂き、この作品が持つ「気配」について、大変興味深い話を伺うことができました。

展示は来月5日までですので、表参道近くにお越しの際はぜひお立ち寄り下さい。
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稲垣智子「Ghost」
会 期:2017年2月11日(土・祝)〜3月5日(日)
    火ー土12:00-19:00 日12:00-17:00 月休
会 場:Art-U room 渋谷区神宮前5-51-3ガレリア3F(Google Map)
詳 細:PDF版プレスリリースはこちらからご覧頂けます。


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稲垣智子個展「Ghost」明日より開催 [展覧会 / room]

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明日より稲垣智子の個展「Ghost」が始まります。映像インスタレーションを主なメディアとして扱う稲垣智子は、現代社会に生きる一人の女性の視点から、私たちが日常の中で盲目的に従っている制度や慣習に潜む様々な矛盾や不条理性を浮き彫りとするような作品を制作してきました。当ギャラリーでの3回目の個展となる本展では、鏡を用いた4チャンネルビデオインスタレーション「Ghost」を展示致します。

なお、明日初日は午後2時より、芸術人類学者 中島智氏をゲストに迎え、稲垣智子との対談形式でのトークを行います。 またトーク終了後、午後4時よりオープニングレセプションを行ないます。ご予約等は不要ですので、ぜひご来場下さい。

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稲垣智子「Ghost」
会 期:2017年2月11日(土・祝)〜3月5日(日)
    火ー土12:00-19:00 日12:00-17:00 月休
会 場:Art-U room 渋谷区神宮前5-51-3ガレリア3F(Google Map)
詳 細:PDF版プレスリリースはこちらからご覧頂けます。

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また、今週末より始まる二つのイベントでも、稲垣智子の作品も展示されています。ぜひ併せてご覧下さい。

■ ART in PARK HOTEL TOKYO 2017
 展示ギャラリー:The Third Gallery Aya
 プレビュー:2 月10 日(金) / 一般公開:11日(土)、 12 日(日)11:00-19:00
 会 場:パークホテル東京 26階・27階 港区東新橋1丁目7番1号 汐留メディアタワー

■ 恵比寿映像祭 地域連携プログラム MELTING POINT 2
 参加アーティスト:稲垣智子、伊東宣明、大のぶゆき、小泉明郎、松井智惠
 会 期:2 月9 日(木)〜26 日(日) 12:00-20:00 / 月休 / 入場無料
 会 場:MEM 渋谷区恵比寿1-18-4 NADiff A/P/A/R/T 3F
 詳 細:https://www.yebizo.com/jp/program/detail/09-09


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宮崎いず美「stand-in」 [展覧会 / room]

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直前となってしましましたが、今週末より始まる展覧会のお知らせです。
この度Art-U roomでは、ユニークなセルフポートレート作品で注目を集める若手写真家、宮崎いず美の個展を開催致します。今春武蔵野美術大学を卒業した宮崎は、在学中より自身をモデルとした「自撮り」作品をTumblr上に発表し、直ちにインターネットを通して国境を超えた大きな反響を呼び起こしました。日本での初個展となる本展では、映画やテレビの撮影時に代役を務める人物、スタンドインをテーマに、インスタレーション形式での展示を行います。ぜひご高覧ください。

宮崎いず美 Tumblrサイト:http://izumimiyazaki.tumblr.com



宮崎いず美「stand-in」

会 期:2016年12月3日(土)〜18日(日)
    月−土曜 12:00-19:00 日曜 12:00-17:00 *12月6日(火)、12日(月)休廊
● オープニング・レセプション:12月2日(金)18:00-21:00
● 会期中の毎週末土曜日と日曜日は作家の在廊を予定しています。

会 場:Art-U room 渋谷区神宮前5-51-3ガレリア3F
企画協力:OFF SHOT


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「水域」終了致しました。 [展覧会 / room]

チャン・ユンチア個展「水域」は先週末をもって終了致しました。会期中ご来場頂きました皆さま、本展の開催にご協力頂きました皆さまに改めてお礼申し上げます。

残念ながら展覧会を見逃してしまったという方は、Art-U roomのfacebookサイトに展示の模様をアップしましたので、ぜひこちらのリンクからご覧下さい。

展覧会は終了しましたが、本展の案内状に画像を使用した作品をまだ紹介していませんでしたので、遅ればせながらこちらの作品をもって最後の作品紹介とさせて頂きます。

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「水槽」 Aquarium 2015年、油彩・キャンバス、75x150.5cm
 
 毎朝、私が扉を開けると、ペットである犬の唐三彩は、背伸びしてあくびをしながら私に挨拶する。それから私たちは散歩に出掛ける。毎朝私は近所の人々に会い、彼らは私たちに挨拶する。この絵に描かれた人々は、私のご近所さんの何人かだ。
 
 この絵を描いている最中、マレーシア全土は、公正な選挙の実施と首相の辞職を求める、今までで最大の街頭デモに備えていた。その数ヶ月間というものの、マレーシアに暮らす私たちは、誰もがその事ばかりを話題とし、誰もがその事ばかり考えていた。
 
 デモが終結した後、唐三彩はめでたくも起こった出来事のことなどすっかり忘れ、以前と同じ様に私に挨拶するだろう。近所の人たちも、私たちを見掛けたら、依然として私たちに挨拶するだろう。けれども、ひょっとしたら彼らは既に変わってしまっているのかもしれないし、もしかしたら私も変わってしまっていて、そしてその後もまだ変わり続けるのかもしれない。しかし、この絵の中では、唐三彩は水槽の中に留まり、ガラス越しに現実の世界を眺めている。



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日本では安保法案反対デモで騒然となっていた昨年の夏、マレーシアでは現政権を担うナジブ首相の退陣を求める大規模なデモが開かれていました。ナジブ首相の汚職疑惑に端を発したこのデモの背景には、長年にわたる人種間の摩擦や権力による言論統制、景気の低迷等が挙げられており、首都クアラルンプールでは25万人ともいわれる多くの人々が参加しました。

*デモの詳細に就いてはこちらのリンク先をご参照下さい。

ちょうど世間がこのデモに向かっていた頃に描かれたこの作品「水槽」は、ユンチアが暮らすクアラルンプールの自宅近所の風景を題材としたもので、描かれた人々も実際に近所の人々をモデルにしたのだそうです。日々顔を会わす人々の間にも、このデモを契機として微妙な距離感が生まれたのでしょうか。ガラス越しに世界を見ているのは、犬ではなく、人間の方かもしれません。

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道を掃いている左端の人物はインドネシアからの出稼ぎ労働者。その右隣はインド人。その他は中国系住民とのこと。もともと70年代に市内中心部で商売を行なう中国系マレーシア人のために造営された住宅地だそうで、現在でも住民の多くは中国系の人々だそうです。

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そしてこちらがこの絵の主人公の唐三彩(タンサンチャイ)。眼に病気がありドッグシェルターにいれられていたのを数年前に引き取ったのだそうです。

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「水域」作品紹介 その4 [展覧会 / room]


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「月光」 Moonlight 2015年、油彩・キャンバス、85x66cm
 
 私の干支である兎は、次のようにして私にとってのシンボリックな動物となった。— 昔ペットとして兎を飼っていたが、繁殖して増え過ぎ、また、同系交配によって凶暴になった。それは私がまだ子供の頃のことだった。結局私たち家族は、兎を全て食べてしまった。こうして兎は私の体内に留まったのである。
 
 私は兎を撫でていた感触を覚えている。兎をなだめるために、滝を滑らかに流れ落ちる水をイメージしながら、指で背中を撫でていた感触を。



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ユンチアの作品には昔から良くウサギが登場するのは知っていましたが、まさかこんな裏話があったとは…

今回の「水域」の連作もそうですが、ユンチアの作品にはウサギの他にも様々な動物や植物が登場します。ユンチアは2003年より'Flora and Fauna'(植物相と動物相)と題されたシリーズを繰り返し制作していて、そこではキャンバスに描かれた絵画作品以外にも、動物の骨や卵の殻、貝、蟹の甲羅等の上にペイントを施した立体作品が見られます。こうした生物に対する強い愛着は、子供の頃に家の庭で、ペットの小動物や昆虫、植物と共に多くの時間を過ごしたことに由来すると、以前AAAのインタビューの中でも言及していて、『その庭は早くから私にとって自己完結した生態系を現していて、私の想像力はその中で暮し、遊ぶことで成長することができたのです。』と語っています。また、動物の骨や貝殻を素材として使用することに関しては、誰も欲しがらない無価値な『死んだもの』を、作品として甦らせることに興味があるのだと述べています。

描かれた絵の内容を見ても、使用される素材を取ってもどこか魔術的な気配が感じられるユンチアの作品ですが、先のインタビューの中には、このことに関しても理解する鍵となる箇所があります。それはジェイムズ・エルキンスというアメリカの美術史研究家の 'What Painting Is' という著書に触れた部分で、絵画と錬金術の類似性について書かれたその絵画論に、ユンチアは多大な影響を受けたと述べています。この本は、従来のように完成された絵を分析するのではなく、中世の錬金術を引き合いにしながら、制作の過程および用いられる素材の重要性に焦点を当てながら絵画を論じたものです。またこれに関連して、ユンチアがアクリル系顔料を使わずに油絵の具に固執する理由として、引続きこう述べています。『油絵の具は、亜麻仁油と土壌から採取された色素という、共に古代から存在する天然の素材を混ぜ合わせて作られたものです。一方、石油化学工業時代の副産物であるアクリル絵の具は(魔力を失した)プラスチックに過ぎません。』

ところで絵の具の素材を吟味するどころか、インターネットの画像検索で作品を見ることが増えた現代では、美術作品が持つ魔術的な力を感じる機会はますます少なくなってきた様に思われます。少し余談となりますが、ポール・オースターの小説「ムーン・パレス」の中で、主人公の青年が雇い主の老人の命令で、ブルックリン美術館に1枚の絵を見に行くエピソードがあります。老人は青年に対し、美術館へ行く地下鉄の中での振舞いから絵の見方に至るまで、あたかも何かの儀式であるかのように事細かな指示を与えますが、あるいはこの過程は、その絵に秘められた魔力を真に見極める心構えを整えるために必要なルーティーンとして与えられたかのようにも思えます。アート作品が持つ魔法は、作る側と見る側の両者が共に信じることにより初めて出現するのではないかな、とふと思いました。奇しくも小説に登場するその絵のタイトルは、上のユンチアの作品と同じ 'Moonlight' です。

チャン・ユンチア個展「水域」は、明日28日(日)が最終日となります。ぜひお立ち寄り下さい。


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「水域」作品紹介 その3 [展覧会 / room]

いよいよ今週末までの開催となる、チャン・ユンチア個展「水域」。展示作品の中より今回はこちらの作品を紹介します。

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「ある芸術家の生涯」 An Artist’s Life 2015年、油彩・キャンバス、66x85cm
 
 この作品は、ヘルマン・ヘッセの小説「ロスハルデ」の中で記述されている絵画を、私なりに翻訳したものである。その絵画とは、小舟に乗った一人の漁夫と、彼が捕えた二匹の魚を描写したものである。私はこの小説を二十年前に読み、この漁夫のイメージは、その後もずっと私の記憶に留まっていたのだが、今になってやっと、このイメージを描くのに十分な成熟と経験を積んだと感じられた。私はこの作品を、できるだけ小説に書かれている通り忠実に描こうとしたのだが、それでもこの「翻訳」の作業から漏れ落ちるものがあった。それは、例えばその時の天候や、漁夫の属する民族と服装、魚の種類、小舟がどんな木材で作られていたのか、といった様な事柄である。
 
 私はこの架空の漁夫が住む土地から遠く離れた所に住んでいる。私は彼の実存主義的な不安を感じるものの、私が描くことができる漁夫の環境は、私の暮らす環境と、その環境に影響されて形づくられた私の思考と感覚に基づいてのみ表現することができる。この漁夫と同様、私は私固有の境遇に置かれていて、私が生み出すことができるものは、私を取り巻く環境が私に授けてくれるもの次第なのである。



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この作品は、上のユンチアの解説にもあるように、ドイツの作家へルマン・ヘッセの小説「ロスハルデ」中の一節を絵に表現し直したもの。この小説は、湖畔に建つ屋敷「ロスハルデ荘」を舞台に、主人公である中年の画家が、妻との確執や最愛の息子の死を経て新たな人生を歩み出すまでを描いたもの。画家がこの絵を描くシーンは冒頭の辺りに出てきます。


 画家はぢつと眼をこらしてその絵を見つめて、パレットの色合ひを考へた。そのパレットは彼の従来のものとはもはや似もつかぬもので、赤と黄の色彩をほとんどみな失つてゐたのだった。水と大気は出来上がつてゐて、水面にはぞつとするほど冷やかな、ぼんやりした光りが漂つてゐた。岸の茂みや杙は湿っぽい模糊とした薄明かりの中に浮び上り、粗末な漁舟は非現実的にぼやけて浮んでゐた。漁夫の顔もとらへどころがなく表情もなかった。ただ漁夫の静かに魚をつかんでゐる片手だけが仮借なき現実味にあふれてゐた。一匹の魚はぎらぎら光りながら小舟の縁を跳ね出してゐたし、いま一匹はぢつと平たくなつて横たはつてゐた。そして、その魚の開いてゐる円い口と驚いて凝視してゐる眼には生物の哀愁があふれてゐた。全体としてはひややかで、ほとんど残酷なまでに悲痛な調子であつたが、それでゐて静かで穏かで、そこに表現されてゐるものは簡素な象徴以外の何ものでもなかつた。簡素な象徴といふものは、芸術品をして芸術品たらしめるものであり、吾人をしてただ単に自然全体の不可解性を感ぜしめるばかりでなく、ある甘美な驚きをもつてそれを愛さしめるものなのである。

(「湖畔の家《ロスハルデ》」 角川文庫、秋山六郎兵衛 訳より *漢字は旧字体のものを新字体に変換しました。)


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迫力ある右手部分の描写。小説の中ではその後、画家が召使に向かって魚の口のあけ具合がきちんとリアリティーを持って描かれているかどうか問いただすやり取りが続きます。


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「水域」作品紹介 その2 [展覧会 / room]

チャン・ユンチア個展「水域」より、2点目の紹介作品はこちら。

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「霧」 Vapour 2015年、油彩・キャンバス、85x66cm
 
 私のパートナー、ミンワは、かつての強制収容所で育ったことを知らなかった。彼女にとってその「新しい村」は、どこでも自由に歩き回れて、大人たちに可愛がられる幸福な場所であった。随分後になって初めて彼女は、自分が育った環境の由来を知り、自分たち民族の過去にまつわる真実を徐々に見出したのだ。こうして彼女のアイデンティティは次第に形成されていった。
 
 この絵の中でミンワは、まるでスパのトリートメントを受け、洗髪した後であるかのようにリラックスしている。彼女の髪は滝となって流れているが、その滝は、滑稽にも鉄条網で囲われている。滝の流れの様にごく自然なものを、どうして塞ぎ止めることなどできるというのだろうか?


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この絵のモデルになっているのは、ユンチアの奥さんであり、フリーランスのライターとして活動されているテオ・ミンワさん。ユンチアのプロジェクトの幾つかでは、共同制作者として欠かせない存在となっている方です。仰向けに寝そべった彼女の髪が、滝の様に流れ落ちる幻想的なイメージが印象的なこちらの作品ですが、ここにもマレーシアの歴史に纏わる物語が秘められています。

第二次大戦後、日本の敗戦により再びマレーシアを支配下においた英国は、攻勢を強める中国系共産ゲリラの影響から国民を隔離するために、マレーシア各地に 'New Village'(新しい村)と呼ばれる収容施設を作り、そこに中国系を主とする農民達を強制的に移住させる政策を取りました。Wikipediaの情報によると、各地に450の「新しい村」が作られ、47万人もの国民がそこに収容されたとあります。

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画面右端の鉄条網を描いた部分のアップ。

今日でも、かつて「新しい村」が拓かれた跡地に暮らす住民は120万人にも上り、現在の若い世代の中には、ミンワさんの様に、自分の生まれ育った土地の由来を知らない人が増えているのだということです。


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