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混浴温泉世界 2012(ネタバレあり) [展覧会 / 他会場]

先週末福岡アジア美術館で開催されたピナリー・サンピタックのワークショップに立会うため福岡を訪れた際、せっかく九州まで行くのならと思い、別府で今月から始まった現代アートフェスティバル「混浴温泉世界 2012」を覗いてきました。別府は確か子供の頃に家族で訪れたことがあるはずだけど、小さ過ぎたのかほとんど何も覚えていません。それでも空港からのバスから降りるや否や何やら懐かしい印象が、、ひと言で言えば「昭和」の香りでしょうか。


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Project 06 クリスチャン・マークレー作品


先ずは楽天で予約した宿に荷物を預け、別府駅構内にあるインフォメーションセンターへ。運良く駅のレンタサイクルが1台残っていたので、まだ夏の気配が残る清々しい陽気の中、地図を片手に海岸方面に向かう。最初に見たのは前回のヴェニスビエンナーレーにて映像作品「The Clock」で金獅子賞を受賞したクリスチャン・マークレーの作品。桟橋の上に無数ののぼりが並び、それぞれに付けられた鈴が賑やかな音を立てている。桟橋の先まで行って写真を撮っていると、近くにいた地元の方らしき男性が、「昔この桟橋には大きなイギリスの客船が係留されていたんだよ。でも今は中国に行っちゃったんだ。」と、どこか寂しげに教えてくれました。


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フェリー乗り場の建物内にあるマイケル・リンの壁画。こちらの作品は前回2009年度開催の際に制作されたものだそうです。


次に向かったのは山の手の鉄輪(かんなわ)温泉エリア。途中から次第に険しくなる坂道を、駅で借りた電動自転車のバッテリーが早くも上がりそうになるのを気にしながらも無事到着。道のあちらこちらから湯煙が登る中、沢山のノラ猫たちが出迎えてくれました。

このエリアに展示されているのは中国人作家チウ・ジージェの作品。趣のある古い日本家屋のお座敷の襖を開けると、竹で編んだローマ建築風の柱頭が現れたり、湧き出たお湯を冷却する施設のそばには無数の人面を織り込んだ竹細工のタワーがあったりと、なかなか迫力のある展示でした。

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Project 08 邱志傑(チウ・ジージェ)作品


その後駅に戻って自転車を返し、電車に乗って一駅隣の東別府駅へ。駅から2、3分歩いた所に昔ながらの古い長屋があり、看板に従って細い路地を抜け建物に入ってみると中はきれいに改装された白いサロン風の空間。大分県の名産というカボスのスライスが散りばめられた中で、カボスティーを頂きながら常駐スタッフのご夫婦にこの長屋のコンセプトについて説明して頂きました。路地をはさんだ向かいの建物は青い光に包まれた神秘的な展示がされていて、会期終了後にはアーティストのためのレジデンス施設として活用されるだとのことです。


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Project 01 廣瀬智央作品


再びサロンに戻ると何やら威勢のいいおじさんが登場。近所に住まれているヤマモトさんという方で、今から自分の車でこのエリアにある他の展示を案内して下さるとのお申し出。その勢いに圧倒されて車に乗り込み、旧遊郭の庭の展示や地元の方々が通う公衆浴場などを見て回る。さすが生まれ育った土地とあって、かつての町の様子や風俗についてとてもお詳しい。そうこうしている内に日も暮れてくると、「近くに若いアーティストが集まって住んでいるアパートがあって、今晩ちょうどそこでバーベキューパーティーがあるのでキミもぜひ来たまえ!」というお誘いを受ける。


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別府市内では至る所にこうした小さな公衆浴場が見掛けられました。2階が公民館になっているところも多く、地元の人間でなくても百円で入浴可能。


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ヤマモトさんが3才の時に建ったという別府教会。最近着任したばかりという若い韓国人の神父さんにもお会いしました。



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もう何も言えぬままヤマモトさんに付き従って到着したのが上の清島アパート。前回2009年度の「混浴温泉世界」の際に立ち上がったプロジェクトなのだそうで、以降NPO法人BEPPU PUROKECTが運営を託され、常時約8名のアーティストが継続して居住し制作活動を行なっているとのこと。今回の「混浴温泉世界」会期中12月2日までアパートを一般に公開し、また毎週金曜の晩にはバーベキューパーティーが開かれているのだそうです。(参加費1,000円要)



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滞在作家の一人、池田ひとみさんにアパート内を案内してもらう。こちらは彼女の展示室で、編み物の手法をメインに制作を行われているとのことです。


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隣の部屋は池田さんがニット作家の竹下洋子さん、平川渚さんと共用している「編むことの部屋」。来場者は前の人が編みかけで残していった続きを編んだり、書きかけの文章の続きを書いたりできるのだそう。


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この部屋は眞島竜男さんの部屋。あいにく作家さんは不在でしたが、説明によると手前は以前眞島さんがこの部屋で行なったパフォーマンスの装置と映像で、奥にぶら下がっているのは空き缶や造花など色んな物を天ぷらに揚げた作品とのこと。


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パーティーの途中で一旦アパートを抜け出し、僕と同じくヤマモトさんに拉致、いやお誘いを受け清島アパートに来ていた写真家の女性と一緒に、毎週末開催される「混浴ゴールデンナイト」会場へ。ここは元々「A級別府劇場」というストリップ小屋だったのを少しずつリノベーションしたそうで、担当は建築家集団「みかんぐみ」。


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この日は4組のパフォーマーが出演。いきなり最近アイ・ウェイウェイもパロッたタイムリーな「江南スタイル」の軽快なリズムで幕開け。女装男子2名によるヒップホップダンスに始まり、不条理劇風の演劇、状況劇風の即興劇と続いて最後の締めはガチの金粉ショー。例えるならビッグマックにかんぴょう巻、ババロアとホルモン焼を一度に食した様な印象と言えばよいでしょうか… つまり、大変濃かったということです。


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再び清島アパートに戻り、「混浴ゴールデンナイト」の出演者も交えて打ち上げ。真ん中でご機嫌に音頭を取ってられるのが件のヤマモト氏です。


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今度は別の滞在作家、阿部寿紗さんに案内してもらいながらアパート内を巡回。こちらは「お米」を素材とした作品を展開する阿部さんの部屋。


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こちらは清島アパート最古参のアーティスト勝正光さん渾身の一作「Draw Your Light」。250cm四方の紙を鉛筆だけを用いて塗り込めたもので、前に立つとおぼろげながら鏡のように自分の姿が映ります。


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その後どういう経緯か勝さんに肖像画を描いてもらうことに。描く人も、描かれる方も、それを背後から覗く人も皆酔っ払いです。もし勝さんのアトリエに丸いメガネを掛けたうさん臭い風貌の男の絵が飾ってあれば、それは私です。


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気が付けば真夜中をとうに回り、そろそろおいとますることに。こんな楽しい場所に連れて来て頂いたヤマモトさん、それに滞在作家並びに関係者の皆さん、大変ありがとうございました。


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宿への帰り道、ふと見上げた別府タワーのネオンの様子がおかしい。この不景気のせいで切れた電球を変えるお金もないのか、と思ってしまった自分の愚かしさに気付いたのは翌日のこと。小沢剛さんによる立派な作品なのでした。


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翌朝は市内中心街を散策しながら作品を鑑賞。別府の町中にはあちこちに猫の姿が見掛けられ、猫好きにはたまらない。


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アーケード商店街を脇に入ったビルの地下にあるシルパ・グプタのインスタレーション。元々この場所には10軒位の飲食店が入り、ちょっとした地下歓楽街になっていたそうで、50年位前にクローズして以降ずっと人目に付かぬまま閉鎖されていたとのこと。会場では無数の黒いマイクを連ねたレリーフが壁面を覆い、また、グプタが別府の人々へのインタビューを通して作った歌が流れています。


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そろそろお昼の時間となったので、前日ヤマモトさんからお勧め頂いた店「いづつ」へ。店先では既に10名くらいの方が並んでいましたが、並んでも食べる価値がある位美味しい海鮮丼を頂きました。


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商店街のあちらこちらには小沢さんのもう一つの作品「バベルの塔イン別府」が。元々大分県には「見立て細工」という伝統行事があり、それを基にそれぞれのお店の商品を用いて塔を作ったのだそうです。


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別府でも日本の他の都市同様シャッター商店街化が進んでいるそうですが、ここでは「楠銀天街劇場」という商店街全体を劇場に変えるプロジェクトが行なわれていて、日々廃材を用いた装飾が商店街を覆っていっています。また会期最終日の12月1日と2日の両日には、この商店街を舞台にダンサーの東野祥子さん振付によるダンス作品が上演されるとのこと。


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こちらは別府駅東側のガード下にある北高架商店街。お洒落なカフェギャラリーや雑貨屋が軒を連ね、毎週土曜日にはフリマも開かれています。中には歌声喫茶のようなカフェもあり、若い人だけでなく色んな世代の人たちが集っていい感じでした。


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昨晩清島アパートのパーティーで知り合ったストリート系ティーマスター月澤さん。この芸術祭に参加するため京都から来られていて、普段は京都の出町柳辺りで野点をされているとのこと。地元が割と近いようで、お茶を頂きながら八幡のポンコツ街道の話などで盛り上がりました。


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そろそろ福岡行きの列車に乗る時間になったので駅へ向かうと、ちょうど地元の学校のブラスバンド部が演奏を行なっていました。駅でコンサートなんて何かいい感じ。みんな一生懸命な目をしていて、きっといい思い出になるんじゃないかな。


以上、一泊二日でざっと見た「別府混浴温泉世界」でしたが、ボランティアスタッフや関係者の皆さまのご厚意でかなり密度の濃い体験をすることができました。アート鑑賞はもちろんのこと、往年の温泉町の雰囲気を色濃く残す町並みの散策も楽しみました。その後滞在した福岡の九州日仏学館で思い掛けなく「混浴温泉世界」総合プロデューサーの山出淳也さんのトークも伺うことができ、更に詳しくこの芸術祭のコンセプト等について理解を深めることができました。山出さんのお話では、11月より「国東半島アートプロジェクト2012」という別のプロジェクトも始動し、ツアー形式のとても面白そうなイベントも準備されているとのことです。国東半島は以前から一度ゆっくり訪ねてみたいと思っていた場所なので、来年2月、奇祭修正鬼会の時期に合わせて行なわれるイベントの際に再度大分を訪れることが出来ればなあ、と考えています。




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コメント 4

emi

別府でこうゆうイベントがあるのですね。楽しそうで行きたくなりました。
いつも興味深い記事をありがとうございます。

(先日は写真をありがとうございました。こちらも行きたくなってしまいました。いつか行くぞ!)
by emi (2012-10-31 10:23) 

kiyo

emiさんコメントありがとうございました。別府は町歩きも楽しかったし温泉巡りも兼ねてぜひ行かれてみてください!
by kiyo (2012-10-31 13:09) 

混浴温泉世界事務局スタッフ松田

混浴温泉世界の事務局スタッフの松田と申します。
ブログ拝読させて頂きました。
とても丁寧に、そして面白くご紹介頂き、大変嬉しく思います!
ヤマモトさんにもお会いされたようで、それはそれは濃密だったことと思います笑
終了まで残り一週間となりました。
混浴温泉世界の各プロジェクトを巡ることで、今の別府の魅力や、場所の力、記憶を感じてもらえると嬉しいです。本当にありがとうございました。
by 混浴温泉世界事務局スタッフ松田 (2012-11-25 00:40) 

kiyo

松田さま、コメントありがとうございました。ちょっとふざけた感じの文章になってしまっったので、てっきりお叱りのコメントが来たのではないかとハラハラしましたが、そうでなくて良かったです。改めて読み直すと、何だかやたらヤマモトさんメインの様な印象を受けますし…(笑)。

国東のアートツアーも大変興味があったのですが、参加するかどうか迷っている内に、あっというまに満員御礼となりました。以前から興味のある場所なので、いずれじっくり訪ねたいと思っています。その際にはぜひまた別府にも立ち寄ります。

それでは残り一週間、フィナーレに向けて皆さん大いに盛り上がって下さい!!!
by kiyo (2012-11-26 02:21) 

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