「水域」作品紹介 その2 [展覧会 / room]
チャン・ユンチア個展「水域」より、2点目の紹介作品はこちら。
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「霧」 Vapour 2015年、油彩・キャンバス、85x66cm
私のパートナー、ミンワは、かつての強制収容所で育ったことを知らなかった。彼女にとってその「新しい村」は、どこでも自由に歩き回れて、大人たちに可愛がられる幸福な場所であった。随分後になって初めて彼女は、自分が育った環境の由来を知り、自分たち民族の過去にまつわる真実を徐々に見出したのだ。こうして彼女のアイデンティティは次第に形成されていった。
この絵の中でミンワは、まるでスパのトリートメントを受け、洗髪した後であるかのようにリラックスしている。彼女の髪は滝となって流れているが、その滝は、滑稽にも鉄条網で囲われている。滝の流れの様にごく自然なものを、どうして塞ぎ止めることなどできるというのだろうか?
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この絵のモデルになっているのは、ユンチアの奥さんであり、フリーランスのライターとして活動されているテオ・ミンワさん。ユンチアのプロジェクトの幾つかでは、共同制作者として欠かせない存在となっている方です。仰向けに寝そべった彼女の髪が、滝の様に流れ落ちる幻想的なイメージが印象的なこちらの作品ですが、ここにもマレーシアの歴史に纏わる物語が秘められています。
第二次大戦後、日本の敗戦により再びマレーシアを支配下においた英国は、攻勢を強める中国系共産ゲリラの影響から国民を隔離するために、マレーシア各地に 'New Village'(新しい村)と呼ばれる収容施設を作り、そこに中国系を主とする農民達を強制的に移住させる政策を取りました。Wikipediaの情報によると、各地に450の「新しい村」が作られ、47万人もの国民がそこに収容されたとあります。
画面右端の鉄条網を描いた部分のアップ。
今日でも、かつて「新しい村」が拓かれた跡地に暮らす住民は120万人にも上り、現在の若い世代の中には、ミンワさんの様に、自分の生まれ育った土地の由来を知らない人が増えているのだということです。
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