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麗江国際アートワークショップ展 [海外出張記]

去る10月、雲南省の古都麗江(リージャン)にてワークショップイベントが開催されました。中国国内と海外から総勢24名のアーティストが参加し、2週間の滞在期間中に制作された作品は最終日に一般公開されました。昨年アート・遊にて個展を開催した許仲敏(シ・チョンミン)も当イベントに参加。早速現地に赴き、このイベントの模様や雲南をベースとするアーティスト達の活動を取材してきました。

アートリポート from 雲南

この度開催された「麗江国際アートワークショップ展」は、イギリスをベースに世界各地でレジデンスやワークショップイベントを展開する Triangle Arts Trust (http://www.trianglearts.org/) および昆明にあるアーティストスタジオ Upriver Loft (http://www.cinaoggi.it/upriverloft/) の主催によるもの。本来は2003年春に予定されていたが、SARSの影響で延期が重なり10月の開催となった。舞台となる麗江(リージャン)は雲南省北西部に位置する小さな町。宋代に創建された古都で、現在は麗江ナシ族自治県の中心地となっている。この町に中国国内より12名、海外から12名のアーティストが集い、2週間の滞在期間中にレクチャーやディベートを重ね、意見の交換や交流を深めつつ発表作品の構想を固めた。最終日には完成されたインスタレーションやパフォーマンスが一般に公開されたが、地方の小都市でこうしたイベントが行われるのは珍しくもあり、会場には北京や上海から駆けつけた評論家や記者の姿も目立った。


「麗江国際アートワークショップ展」参加アーティストのスナップ。会場となった木王府客桟の前にて。


宋冬(ソン・ドン、中国)によるインスタレーション「世界を食べる」。リンゴやバナナなど様々なフルーツで形作られた色とりどりの世界地図。来場者は好きな果物を取って食べることができる。


Osaira Muyale(キュラソー)によるパフォーマンス。太極拳の師範と共に演武を披露した後、彼女は長い髪を剃りその髪の束を会場に展示した。


許仲敏(シ・チョンミン、中国/イギリス)によるインスタレーション「ナシ族の扉」外観および内部。渦巻き状のチューブの中を白く着色された水が勢い良く流れている。周囲の木製の扉には古くよりこの地域に暮らす少数民族ナシ族の彫刻が施され、一見アンティークに見紛うが実は現代のコピー。一見古びて見える麗江古城の街並みも同様で、ほとんどの建物は96年の大震災後に再建されたもの。今では土産物屋やカフェが入り観光地化がかなり進んでいる。

翌日、近郊の村でシンポジウムと地元アーティストによるパフォーマンスが行われた後、2台の大型バスに分乗した一行と共に200キロ南方の大理(ダーリー)に向かう。ここには天安門事件以降中国現代美術の一主流となった「シニカル・リアリズム」の旗手、方力鈞(ファン・リジュン)がスタジオを構えており、その晩このスタジオにて盛大な打ち上げパーティーが開かれた。こうして全てのプログラムは終了し、次の日、参加者達は一人、また一人と帰途につく。別れ際にアドレスを交換し名残り惜しそうに見送る彼らの姿を見るに、国境を越えた作家間のネットワークを築くという今回のイベントの目的は充分に達成されたようだ。ただひとつ残念だったのは、今回のイベントを通し地元住民の反応が薄かったように見えたこと。美術に関心の無い一般の人々をどれだけ巻き込むことができるか、これは日本でも大きな課題であるが。


麗江近郊の村で行われた地元アーティストによるパフォーマンスの模様。辺りでは村人達が物珍しげに遠巻きに見守っていた。


大理にある方力鈞のスタジオで行われたクロージングパーティー。中国拳法の演舞やビデオ作品の上映も行なわれ大いに盛り上がった。

その後今回知り合った作家の車に同乗させてもらうこととなり、彼の住む雲南省の州都昆明(クンミン)へと出発。高速道路はまだ貫通しておらず、文字通り山を越え谷を渡り8時間ほど掛けてようやく辿り着く。地図上ではほんの数センチの距離だが、すっかり強ばったお尻の辺りをさすりながら今さらのように中国の広大さを思い知る。明けて次の日、このアーティストに昆明のアートスポットを案内してもらう。まず向かったのは今回のイベントの主催者である Upriver Loft。倉庫を改造したかなり広いスペースで、展示室の一角には気の利いたカフェもある。ちなみにこの周囲にはギャラリーが3軒ばかり集まっており昆明のアートシーンの中心地となっているようだ。Upriver Loft の上階には現在8名ほどのアーティストがアトリエを構えており、また昨年からは海外からのアーティストを招聘するレジデンスプログラムも始められた。


昆明のアーティストスタジオ Upriver Loft 内にアトリエを持つ李季(リ・ジ)とその作品。今風のファッションに身を包んだモデルや水商売風の女性と猿や豚といった小動物を組み合わせたペインティングが並ぶ。アトリエは天井が高くて採光も良く、大画面の作品の制作にはとても便利そうだ。


同じく藩徳海(パン・ドゥーハイ)のアトリエ。様々な欲望を抱え膨張した現代人の姿がシニカルかつユーモラスに描かれている。

この日は他に昆明市内の画家のアトリエを訪ね、その後良く分からない流れのまま気が付くと回族料理店にて円卓を囲む一団と合流していた。中には麗江で見掛けた顔もあり、皆作家や美術関係者らしい。次々注がれるヨーグルトを飲み干しながら食事がどうやら一段落すると、二人の同席者の間で猛烈なディベートが始まる。内容は分からないものの聞けば「方言」が問題となっているらしい。国家プロジェクトである西部開発が進行し雲南省や四川省といった内陸部にも急速な近代化の波が押し寄せる中、方言に代表される地域の文化的アイデンティティをいかに捉え直していくべきか、大きな懸案となっている様だ。その後翠湖湖畔の風流な茶館に場を移し、今度はプーアル茶を飲みながら談笑が続く。目指すアートはそれぞれ異なるものの、皆気心の知れた仲間と見えなごやかな時が流れる。夜もすっかり更け、最後にさり気ないもてなしで暖かく迎え入れてくれたこの友人達に礼を述べ再会を誓いつつ別れた。


昆明市内にある毛旭輝(マオ・シューフイ)のアトリエにて。中国では古来厄除けとして家に鋏を飾る風習があるというが、毛が描く鋏は、一夜にして都市の景観を変貌させる開発の波、あるいは芸術活動を規制する様々な圧力に対する抵抗のシンボルなど、多義的な象徴的意味合いを帯びている。

と、ここで筆を置ければ良かったのだけど、次の滞在先ハノイにて水を差すようなニュースを耳にした。西安大学の日本人留学生がお下劣な芸を披露して中国人学生の逆鱗に触れた事件だ。その少し前には広州にて日本企業による集団売春事件も起こっており本当に情けない。日本人の間では、こうした事件に対する中国側の反応をいささか神経質過ぎると見る向きもあるが、日本軍が中国で、また他のアジア諸国でムチャクチャな事をしたのはほんの一昔前に過ぎない。日本企業の中国進出が加速する中、単に文化の違いだけで片付けられないような摩擦は今後も続々と起こってくるだろう。帰国後、今回出会った中国の新しい友人達に宛てたお礼のメールに、ひと言こう書き添えた。「全ての日本人があの留学生達の様な訳ではない。」数日後届いた返事にこう書いてあった。「中国にもそういった連中はいる。けれど我々には、相互の理解を深めるために美術を通してできることがまだ何かあるのではないか。」少しほっとした。


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