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シンガポール・ビエンナーレ 2013 [展覧会 / 他会場]

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先月開幕したシンガポール・ビエンナーレ2013のオープニングに行って参りました。4回目の開催となる今回のビエンナーレでは、'If the world changed'(もしも世界が変わったら)というテーマを掲げ、シンガポールおよび周囲の東南アジア諸国を中心とする82名/組のアーティストが参加。今回のビエンナーレの大きな特徴は、シンガポール美術館の学芸員と参加各国のキュレーター/アーティストによる総勢27名からなるキュレーションチームが編成され、大御所ディレクターを迎えたトップダウン型ではなく、いわば「恊働」の形でプログラム作りがなされたこと。これはある意味、地理的・歴史的にも多種多様な民族や文化が交差する中で成立したシンガポールという国にふさわしい方法であるように思えました。初回2006年のビエンナーレでシンガポールの目抜き通りオーチャード・ロードの並木を水玉の布で覆った草間彌生の作品や、前回2011年度にマーライオンを囲ってホテルにした西野達の作品のようなキャッチーな作品は今回は余り見られませんでしたが、今後東南アジア圏から世界へ向けて活動の場を広げていくであろう若い才能が揃った、勢いの感じられる展示に仕上がっていました。
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シンガポール・ビエンナーレ2013
会 期:2013年10月26日〜2014年2月16日
オフィシャルサイト:http://www.singaporebiennale.org


*下に展示作品をダイジェストで紹介します。

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Ahmad Abu Bakar (マレーシア生まれ、シンガポール在住) "Telok Blangah"
マレーシアの伝統的な釣り船の中に、シンガポールの刑務所に収容されている囚人たちの願い事が書かれた紙が入った無数のガラス瓶が積まれた作品。



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Oscar Villamiel(フィリピン)"Payatas"
マニラ市のごみ投棄場で回収された人形の頭部を部屋一面に飾ったインスタレーション。かつて子供達に愛玩された人形たちの成れの果て、、合掌。


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Angie Seah(シンガポール)"Conducting Memories"
ホールに置かれた演壇の中に上の写真のようなコンソールが組み込まれていて、ボタンを押すとシンガポールの市街の喧噪や80年代の国策キャンペーンの演説など様々な音声が流れ、音を媒介として都市の記憶を辿ることができる作品。


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Kumari Nahappan (マレーシア生まれ、シンガポール在住) "Anahata"
鮮やかな深紅色をしたサガ(学名:Adenanthera pavonina、和名:ナンバンアカアズキ)の種子をうずたかく積み上げた作品。タイトルの"Anahata"は胸部にある第4のチャクラ、アナーハタ・チャクラを指し、種子に秘められた潜在的なエネルギーを感じさせる神秘的な作品。


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Toni Kanwa(インドネシア)"Cosmology of Life"
白いテーブルの上に数ミリ〜数センチ程度の極小の繊細な木彫りの像が並べられた作品。同じ部屋に展示されたJeremy Sharma(シンガポール)の、消滅した星から遠く発せられた電磁波の波形をスチロール上に刻んだ作品と共に、ミクロ−マクロコスモスの世界観を感じさせる作品でした。(こちらのリンク先で詳しく紹介されています。http://www.designboom.com/art/toni-kanwa-hand-carves-1000-needle-sized-wooden-sculptures-11-11-2013/


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Nge Lay(ミャンマー)"The Sick Classroom"
ミャンマーのとある村に実在する学校の一年生の教室を、その村の職人らと一緒に再現したもので、教育と政治的なコントロールとの関わりを扱った作品。ちなみに本作家ゲー・レイの夫であるアウン・コもアーティストで、現在3331アーツ千代田のレジデンスに滞在中です。


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Chi Too(マレーシア)"Longing"
「精神水準器」という器具を頭上に乗せ、シンガポールの歴史的に由緒のある七つの地点でパフォーマンスを行った模様を写した映像作品。観客自身が「精神水準器」を試せる小部屋もありました。


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Anon Pairot, Kamin Lertchaiprasert, Patama Roonrakwit, Samart Suwannarat & Zcongklod Bangyikhan / キュレーター Angkrit Ajchariyasophon(タイ)"SA-TAN-NI"
プロダクトデザイナー、芸術家、建築家、社会学者、雑誌編集長とそれぞれ異なる分野で活躍する5名のタイ人クリエーターによる共同プロジェクト。完成した作品を展示するのではなく、会期中に催されるワークショップ等を通して参加者と共に体験し、学び、意見を交換する、まさに「恊働」を目的としたオープン・エンドなプロジェクト。ちなみにタイトルの"SA-TAN-NI"は、タイ語で「駅」の意味。上の写真で回廊に並べられているのは、プロダクトデザイナーAnon Pairotが主催したワークショップで作られた、古い家具をリサイクルした家具たち。この他にも会期中映像のワークショップや、自転車でシンガポールを巡るガイドツアー等が開催される予定。右の写真に写っているのは、このプロジェクトをキュレーションしたチェンライ在住のアーティスト、アンクリット・アッチャリヤソーポン


teamLab(チームラボ、日本)"Peace can be Realized Even without Order"
出会った出展作家がみんなこぞって一押ししていたのが、今回のビエンナーレに日本から唯一参加したteamLabによるこちらの映像インスタレーション。 "Peace can be Realized Even without Order"(秩序がなくともピースは成り立つ)と題されたこの作品は、絵巻物から抜け出てきたような一群の人々や動物たちが、お互いに、また鑑賞者の存在に影響を受けながらそれぞれに踊り音楽を奏で、一見バラバラなようでいながら、時折全体が調和し一体化する瞬間が訪れるという内容。必ずしも指揮者やリーダーがいなくても調和を得ることは可能であるという提案は、今回のビエンナーレのテーマに対する答えとしても大変説得力があるように思えました。
*こちらのサイトにこの作品にについて更に詳しい説明があります。


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Ken + Julia Yoneyani (日本生まれ、オーストラリア在住)"Crystal Palace: The Great Exhibition of the Works of Industry of All Nuclear Nations"
暗闇の中、緑色に光る31個のシャンデリアからなるインスタレーション。福島原発事故に触発されて構想された作品とのことで、原発の持つ危うさ、不気味さが象徴的に表現されている。


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Nguyen Trinh Thi(ベトナム)"Unsubtitled"
人型をした一群のパネルの上に、ひたすらものを食べ続ける人々の映像が投影された作品。管理下の社会における人々の暮しをシニカルに表現すると同時に、検閲に抗して表現の自由を追い求めるアーティストの固い意志が感じられる。


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シンガポール美術館のアネックスSAM AT 8Qのエントランス前に出現した雑貨屋は、Anggun Priambodo(インドネシア)の作品。かつてはこのようなよろず屋は、東南アジアの町のあちこちに存在したが、現在ではコンビニタイプのチェーン店に取って代わられてしまった。この店に並べられいる商品は実際に購入可能で、結構繁盛していた。


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Le Brothers(ベトナム)"Into the Sea"
双子の兄弟タンとハイによるアーティストユニット、レ・ブラザーズによる映像作品。彼らが生まれた場所であり、またベトナム史上度々戦場となった中部のニャット・レ河畔を舞台に撮影されたもので、終わりなく繰り返される戦いを象徴するかのように、互いに組み合ったり布で身体を拘束する二人の姿が3面のスクリーンに写し出されている。


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オープニングにシンガポール国立美術館前の広場で開催されたSharon Chin(マレーシア)主宰のパフォーマンス。約百名の参加者が、Mandi Bungaというマレーシアの伝統的な花やライムを用いた沐浴を行なった。背後に見えるシェルター状の構造物は、インドネシアのアーティストEko Prawotoの作品。


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Po Po(ミャンマー)"Road to Nirvana"
シンガポールの街並を見晴らすフォート・カニング・パークの丘の中腹に設置された野外作品。林の木々の間に張り巡らされた糸が迷路状の通路を成し、木の枝に吊るされた鈴が、瞑想に誘うかのように時おり微かな音色を立てる。糸には蛍光塗料が塗られていて、陽が落ちると、一層神秘的な雰囲気が漂う。作家によるとこの作品が構想されたのは約20年前で、今回のビエンナーレにて始めて実現されたとのこと。

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オープニングの晩に、この作品の傍らでささやかなセレモニーが行なわれ、集った人々は一緒に、アメリカの詩人ロバート・フロストの詩 'Stopping by Woods on a Snowy Evening'(雪の降る夕方森に寄って)を朗読しました。


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■ 番外編(マレーシア)

シンガポール滞在後、クアラ・ルンプールでストップ・オーバーし、友人のアーティスト、チャン・ユンチアの案内でKL市内のアートスペースを案内してもらいました。ユンチアは2005年の第3回福岡アジア美術トリエンナーレに出展し、2008年には札幌のS-AIRのレジデンスに滞在しており、現在今月24日まで熊本市現代美術館に巡回している「熱々!東南アジアの現代美術」展でも作品が展示されています。


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ユンチアと奥さんのミンワさん。マレーシア現代美術のコレクターTommy Ngさんのコレクションハウスを訪ねて。折よくTommyさんともお会いすることができましたが、建築家/デザイナーとして活躍する彼は、KL市内や地方都市に 'Sekeping Retreats' というお洒落で楽しい雰囲気のホテルを何軒もデザインされていて、次回マレーシアを訪ねる際はぜひ泊まってみたいと思いました。










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Tommyさん所蔵のユンチアの作品 'The Nutcracker'(部分)2009年、油彩・キャンバス、137x210cm。ユンチアはキャンバス以外に犬の頭蓋骨カニの甲羅の上にペイントした作品もあり、ここ数年は切手をコラージュした作品を発表しています。









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その後ユンチアの作品を扱っているギャラリーRichard Koh Fine Artを訪問し、ディレクターのマイケルさんと合流してセントラルマーケット内にあるPrecious Old Chinaにて夕食。この店は中華料理とマレー料理が融合したニョニャ料理の名店で、古い家具や調度品がセンス良く飾られた店の雰囲気もなかなか良かったです。












IMG_1539.jpg滞在最終日、出発は夜行便だったので時間調節のため郊外のマレーシア森林研究所(通称FRIM)へ。開発に湧き立つ市内の喧噪をしばし離れて、森の中のトレッキングや木々の間に渡された吊り橋を歩くキャノピーウォークが楽しめてリフレッシュできました。

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