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瀬戸内国際芸術祭2019 ピナリー・サンピタック「黒と赤の家」 [Pinaree Sanpitak]

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瀬戸内国際芸術祭2019の秋会期(9/28~11/4)が、いよいよ開幕しました。秋会期のみ会場として参加している西部の島々のひとつ、本島にてプロジェクトを行なうピナリー・サンピタックの作品を見て参りましたので、下にリポート致します。



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ピナリー・サンピタックの作品「黒と赤の家」があるのは、丸亀や児島からのフェリーが到着する泊港からバスで5分ほどの笠島地区。この界隈は、かつてこの辺りの海域を仕切っていた「塩飽(しわく)水軍」の本拠が置かれ栄えたところで、江戸時代からの古い町並みがよく残っており、そのまま時代劇のロケができそうな雰囲気。



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そんな趣のある小路をしばらく歩くと、ほどなくピナリーさんの「黒と赤の家」に到着。入り口で出迎えてくれる簾の様なインスタレーションは「マーライ」という作品。タイの寺院などでよく見かける花飾りをモチーフとした作品で、白い生地を花状に折り連ねたものに、隣にある島民の共同農地で栽培された千日紅の赤い花が、所々に挿まれています。ちなみに千日紅のタイ語名は 'Ban Mai Roo Roi'と言い、「永遠に咲き続ける」という意味だそうです。日本語でもタイ語でもよく似た縁起の良い意味を持つこの花を用いた作品が、来場者を穏やかな安らぎの空間へと導いているようです。


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母屋に入って最初の部屋は、深紅のクッションが積み重ねられた赤い部屋。この部屋ではクッションにもたれてくつろいだり、特製メニューの食べ物や飲み物を注文して味わうことができます。ちなみにこの部屋にあるクッションは、タイのイサーン地方伝統のキット織りで作られたもので、互いに紐で結んで大きさや形を調節できるようになっています。



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ピナリーさんは、'Breast Stupa Cookery'という料理のプロジェクトを、これまで世界各地で行ってきましたが、本島でも、地元の食材をリサーチしながらレシピを作ったタイ風のカレーを提供しています。主な食材は、瀬戸内海で採れた鮮魚に、島で育てた香川本鷹唐辛子で味付けしたもの。ピリリとした辛味がアクセントとなり、とても美味しかったです。



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次いで奥のお座敷は、木炭で塗られた壁紙に覆われた黒い部屋。通りに面した床の間には、乳房、あるいはストゥーパ(仏塔)の形状をした立体作品がいくつか並べられています。この作品の素材となっているのは、MO紙という手漉き紙。水彩画や版画を制作されている方の中には、聞き覚えのある方もいるかもしれませんが、この紙は沖茂八という越前和紙の漉き職人の方が、戦時中に試行錯誤を重ねて開発した紙です。綿や麻を微妙にブレンドして漉いた独特の質感のある紙で、ピナリーさんもわざわざ取り寄せて愛用していました。ところが一昨年、この紙の抄造を引き継いでいた三代目の方が亡くなり、MO紙の製造は途絶えてしまいました。


この「黒と赤の家」という作品には、「失われたものへのオマージュ」というサブタイトルがあります。今回作品となっているこの家屋は、かつて名工として全国に名を馳せた塩飽大工の最後の世代の方の住居だった場所であり、その方が亡くなって以降、空き家として放置されていました。かつての栄華の影を残しながらも過疎化が進むこの島で作られたこの作品には、大工や和紙職人といった失われてしまった職人技に対する敬意と哀惜の気持ちが、ひっそりと込められているように思えます。



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一旦母屋を出て、今度は裏庭へ。たたきの開けた空間にそびえ立つ一対の構造物は、'Breast Stupa Topiary'(乳房の仏塔トピアリー)という作品。この作品のオリジナルモデルは、ピカピカに磨かれたステンレススチール製ですが、ピナリーさんは、この島の家屋の外壁に多く使われている焼き杉に着目し、大工であったこの家の最後の住人の方への敬意も込めて、焼き杉の板を用いたサイト・スペシフィックな作品に仕上げました。どこか鳥居や仏塔を思わせる神聖さと、乳房の官能性を同時に感じさせるモニュメントとなっています。



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作品に別れを告げ外に出ると、隣の共同農地では、赤々とした千日紅が咲き誇っていました。この千日紅は、ピナリーさんが5月に来島した時に、島の住人の方々と一緒に苗を植えたもので、摘まれた花は、入り口を飾る作品「マーライ」に用いられています。日本に留学経験もあり日本の美術にも精通しているピナリーさんは、黒と赤の二色が日本の美意識の根幹をなす色彩と考えていて、また、視覚的にも焼き杉の黒と千日紅の赤のイメージから、今回この作品を「黒と赤の家」と名付けました。



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この日はピナリーさんに紹介してもらった「やかた船」という民宿に一泊しました。ほとんどの方は日帰りで芸術祭を見に来られるので、最終のフェリーが出てしまうと島内は急に静まり返り、遠く瀬戸大橋を行き交う車のライトが別世界のように思えました。


まさかの台風発生にビクビクしながらの瀬戸内芸術祭訪問でしたが、無事に作品を見て回ることができて良かったです。本島では会期中、ピナリーさんの作品と連動して、島内十ヶ所ほどの飲食店にて、タイ風にアレンジしたフードやドリンクの提供が行われます。また、会期中の毎日曜日を「本島タイの日」として、泊港に雑貨や飲食のテント会場が設営されるそうです。


また本島には、芸術祭関連以外にも多くの見どころがあり、今回そちらを回りきれなかったのが少々心残りです。

塩飽本島観光案内所 公式HP http://honjima.justhpbs.jp/index.html


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