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カロリーナのアトリエ訪問 & 第56回ヴェニス・ビエンナーレ [海外出張記]

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8月も最後の週に入ったとたん、東京はめっきりと涼しくなりました。あんなに耐えきれないほど暑かった夏も、いざ終わってしまうとなると、何だか名残惜しいものですね。

さて、今年の夏休みは、カロリーナ・ラケル・アンティッチの次回展覧会の打合せとビエンナーレ見学を兼ね、久々にヴェネチアに出掛けてきました。以前のブログでも紹介しましたが、カロリーナは現在、吉本ばなな作品のイタリア語翻訳版の装丁の仕事を手掛けており、ジュデッカ島にある彼女のアトリエにて表紙に使われた作品の原画やその他制作中の作品を色々と見せてもらいました。次回日本での展覧会についてもあれこれとアイデアを交換し、これから新作の進捗状況を見ながら少しずつ準備に入ります。展覧会の開催はまだしばらく先になりそうですが、概要が固まりましたら改めてご案内します。


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カロリーナのアトリエにて、吉本ばなな「哀しい予感」イタリア語版とその原画。


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こちらは「キッチン」イタリア語版と、表紙に使われたイラストを描きためたデッサン帳。


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こちらは現在制作中の磁器彫刻のシリーズ。手前にある古い少年楽団の集合写真を参考にしながら、一人ひとり表情豊かに作られていました。


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打合せの後、旦那さんのアウグストの美味しい手料理をごちそうになり、その後彼がディレクションするアートスペースPUNCHを見学。この場所は元々酒の貯蔵庫だったのを改装したもので、どっしりとした古びた壁が何ともいい味を出しています。


今年120周年を迎えた第56回ヴェネチア・ビエンナーレ。アーティスティック・ディレクターはナイジェリア出身のオクウィ・エンヴェゾーで、総合テーマは 'All the World's Futures'(全世界の未来)。エンヴェゾーといえば、昔訪れた「ドクメンタ11」の総監督がやはり同氏で、見応えがあったもののかなり硬派な内容だったことが記憶に残っています。また事前に調べた情報では、連日会場にてマルクスの「資本論」の朗読が行なわれている等と書かれていたので、理解するのに時間が掛かる難解な作品がずらりと並んでいるものと覚悟していたところ、いざ会場に入ってみると意外と流れよく展示を見ることができました。個人的な印象では映像作品に特に秀逸なものが多く、時間が足りないと分かりつつも、思わずじっくりと見入ってしまった作品が幾つもありました。


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ジャルディーニ会場のメインパビリオンの展示。部屋の中央には、ランド・アートの巨匠ロバート・スミッソンの'Dead Tree'(1969年作の再制作)。


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奥の壁面にはアボリジニの作家エミリー・カーメ・ウングワレーの大作「大地の創造」。2008年に国立新美術館で開催された回顧展でも展示されていましたが、記憶に残る素晴らしい展覧会でした。手前の彫像群はパキスタン生まれの
女性作家Huma Bhabhaによる作品。


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今回のビエンナーレで一番気になったのはアルゼンチン出身のミカ・ロッテンバーグという作家。こちらはジャルディーニで見たショートビデオで、アルセナーレ会場の方にも真珠のアクセサリー工房を擬した小部屋の奥にシュールな映像が流れていました。


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メインパビリオンの真ん中に設けられた「アリーナ」では約7ヶ月の会期を通して「資本論」の朗読やパフォーマンスやレクチャー等のライブ・プログラムが行なわれるとのこと。訪れた時には「アート・アクティヴィズムの新しい流れ」と題されたシンポジウムが開かれていました。


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日本館の展示は塩田千春のインスタレーション「掌の鍵」。一般から募って集められたという無数の鍵が赤い糸に繋がれ、天井を埋め尽くす様にぶら下げられていました。階下のピロティ部分には、自分の誕生時の記憶を語る子供たちのビデオが流れていました。


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フランス館の展示はセレスト・ブルシエ=ムジュノ。以前には小鳥たちにエレキギターを奏でさせる作品 'from here to ear' を発表している彼ですが、何とこの作品では木にダンスを踊らせています。といってもしばらく見ていないと気付かない程ゆっくりしたスピードで木々が移動していて、何でも木自身の樹液の流れや日当り等の要素で動きが決まるとのこと。パビリオンの内部にはお誂えのクッション席もあり、寝転がって何時間でも見ていたい作品でした。


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毎回アルセナーレのエントランス近くの会場で展示を行なっている香港はツァン・キンワのソロショーを開催。ニーチェの著作から採られた 'The Infinte Nothing'(限りなき虚無)をタイトルとした展示は、キンワの代名詞とも言えるテキストをプログラミングした4つのビデオインスタレーションで構成されていて、タル・ベーラの映画にも通じる様な独特の終末感に満ちた世界が展開されていました。


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アルセナーレ会場の最初の展示室はブルース・ナウマンのネオン作品とアデル・アブデスメッドのインスタレーション。一見水面に咲く睡蓮の様に配置されたオブジェは、刃の長いナイフを組み合わせて作られています。


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こちらは南太平洋の島国ツバルの展示。これまで環境問題をテーマとした作品を発表してきた台湾人作家 Vincent J.F. Huang(黄瑞芳)による作品で、海水が溢れるプールの上に渡された仮設の橋を渡る作品。一見幻想的ながら世界規模の温暖化に寄る海面上昇により水没の危機にあるツバル、そしてヴェネチアの現実が体感できる。



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ビエンナーレの開催に合わせて毎回数多くの展覧会やイベントが開催されますが、その中でも最近すっかり定着した感があるのがフォルチュニイ宮で開催される企画展。主催者のベルギーのアートディーラーアクセル・フォーヴォルトの美意識が凝縮された展示内容で、今回は'PROPORTIO'というタイトルの下に、考古学的作品から本展のために依頼制作された現代アート作品まで「比率」に関する様々な作品が集められていました。


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日本の文化にも深い造詣を持つフォーヴォルトは、戦後関西で結成された前衛芸術集団「具体美術協会」の世界的なコレクターとしても有名。3階の展示室には、ベルギー在住の建築家三木龍郎がデザインした和風の空間に、具体の代表的な作家白髪一雄の作品が展示されていました。



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こちらはフランス人実業家で世界的な現代美術コレクターであるフランソワ・ピノーのコレクションを展示するプンタ・デラ・ドガーナ現代美術館。ベトナム系デンマーク人作家ヤン・ヴォーがキュレーションした 'Slip of the Tongue' という企画展が開催されていて、こちらにも具体のメンバー元永定正の作品が展示されていました。


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目下ヴェネチアで開催中の数多くの展覧会の中でも一押し、とカロリーナとアウグストが勧めてくれたピーター・ドイグの個展。十点余りの小規模な展示だったけど、趣のある会場の雰囲気と相まって凄いドキドキ感。今回ヴェネチア滞在中に多種多様な作品を見たけど、改めて「絵画っていいなあ」と感じさせられた展覧会でした。会場は Fondazione Bevilacqua la Masa。グラッシ館からグランド・カナルを挟んだ反対岸方面にあります。



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もうこれ以上食べれない、いや、見れない、、という位アートで満腹になり、リド島のビーチでしばし息抜き。やはりカロリーナとアウグストに勧めてもらったアルベローニのビーチは、中心部からは離れているけれど地元感が漂う良いビーチでした。S.M.エリザベッタの船着き場からAのバスに乗り20分くらい。


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ヴェネチアに出掛ける前に、購読しているニュースメールで、昨今何かと話題のザハ・ハディドが設計した山岳美術館というのがイタリア北部のドロミーティにオープンしたと知り、ついでに足を延ばして訪れてきました。この美術館は南チロル出身の伝説的登山家ラインホルト・メスナーが手掛ける山上美術館シリーズのひとつで、プラン・デ・コロネス山(2275m)の山頂に位置します。半ば地中に埋もれたかのような建物に入ると、内部には登山と山岳史の発展に関する絵画や写真、登山装具、ドキュメンタリー映像等が展示されていて大勢の登山客で賑わっていました。また、中空に突き出したテラスからは南チロルの壮大な山並が一望できるようになっていて、一見奇抜に見える外観ながら、実際に訪れてみると周囲の環境にうまく馴染んでいて、デザインもコンテンツも良く練り上げられた建物だとの印象を受けました。

■ Messner Mountain Museum - Corones

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